それ以前に、どうしても簔助さんの復帰公演の映像がみたくて、文楽劇場の視聴室でビデオをみた。復帰公演のときは、石部宿屋の段も、六角堂もあり、今回と同じ。
とっても印象に残ったのは2つの場面。
ひとつは、伊勢から石部にむかう途中、木に腰掛けて、着物のホコリを下女が払うところ。お半@簔助さんが両手をあげてはらってもらう姿が、もうびっくりたまげるほど可愛らしくて、無防備で、お嬢様。あまりのかわいさに悶絶。ああ、こんなに幼い娘を・・・と思いながら、こんな娘に無防備に見つめられたらそりゃ無理だろうと、気持ちはすっかり長右衛門(これが気持ちがおっさんといわれる所以)。長吉がいうように、「よい年からげて初物を賞翫する奴も奴、据膳するがきもがきめ」。
もうひとつは、簔助さんのお半は、桂川でずっとしゃくりあげて泣いていたこと。
簔助さんの写真集のお半、家の中をのぞいて「よい首尾」といったり、「年もいかいで恥ずかしい、この腹帯をどうしよう」とかをみて、これは幼いといっても魔性があるなと思っていた。
しかし、実際に舞台をみて、お半をみていたら違った。幼いまま長右衛門と過ちを犯してしまい、そのままでいられず、唯一人罪をわかちあってくれるんじゃないかと思った長右衛門に突き放され、悩んで悩んで精一杯考えて出した結論が死ぬことだった。でも思い切れず、長右衛門に会いたかった。お別れにきたといいつつ、最後の望みをかけていたのかもしれない。
ところが、長右衛門はここでとぼける。刀のこと、お絹のこと、いろいろあって、お半どころじゃなかったんだろう。そんな長右衛門をみて、やっぱり死ぬしかないとお半は覚悟したんだろうな。心の中では、叫びたくてしかたなかったと思う。あんなに冷たい男にすがりつくお半がかわいそうすぎた。「長右衛門、据膳を食うのも男なら、ここで気づくのも男じゃないんかいっ!」と突っ込み。
でも、お半が去った後で長右衛門は異変に気づき、追いかける。一人で死ぬしかないと思ったのに、書置きを読んで、後を追ってきてくれたら・・・、もうだめだよね。ほんとは、一人で死ねるほど、お半は思い切れていなかったと思う。おぶわれて現れたお半は幸せそうにみえたのだ。おなごはおそろしいと思った。
ところが、長右衛門は自らの置かれた事情を話し、生きながらえてくれという。そりゃもう無理だよ、おぬし、ここまで来てなんて残酷なことをいうんじゃと怒りさえ覚えた。そして、この長右衛門の話をきいているとき、お半が泣いているのに気がついた。肩がふるえていた。はじめは、幼いままなのかと思っていたが、長右衛門の話をきいて、お半はこういう。
「(生きながらえろといのは)そりゃ可愛いのじゃない、憎いのじゃ」
「定まり事と諦めて、一緒に死んでくださんせ」
お半はちゃんとわかったんだと思う、簪のうれしい思い出が一瞬だったことも、長右衛門が自分を愛していたのではなかったことも、こうして一緒に死ぬことは愛されてじゃないことも。でも、一人ではもう生きることも死ぬこともできない。
そして、長右衛門もやっとお半を受け入れた。
「ともに沈まん、こなたへ」
実は、勘十郎さんのお半をみたとき、泣いていたことには気づかなかったのだ。お半があんまり幸せそうにみえて、この話がなんとも不可解なものも思えていた。
「お半、これでよかったの?」とずっと思っていた。
でも、今回の簔助さんのお半をみて、浄瑠璃をじっくりきいて、少女は大人になって死んでいったと思ってます。
私がみた桂川は穏やかな流れでした。
「お半、これでよかったんだよね」

競伊勢物語
玉水淵の段
口 相子大夫(前半) 清 馗
つばさ大夫(後半)
奥 松香大夫 清 友
春日村の段
中 咲甫大夫 喜一朗
次 千歳大夫 富 助
切 住大夫 錦 糸
清 馗(琴)
文字摺売りお咲 紋 秀
文字摺売りお谷 簑紫郎
娘信夫 玉 英
磯の上豆四郎 簑二郎
亭主五作 勘 市
鉦の鐃八 幸 助
代官川島典膳 清五郎
母小よし 文 雀
紀有常 玉 女
在原業平 玉 翔
井筒姫 紋 吉
勧進帳
弁慶 咲大夫 清 治
富樫 呂勢大夫 燕 三
義経 南都大夫 清志郎
伊勢 始大夫 清 丈
駿河 睦大夫 龍 爾
片岡 つばさ大夫(前半) 寛太郎
相子大夫(後半) 清 公
常陸坊 文字栄大夫
番卒 芳穂大夫
番卒 靖大夫
富樫之介正広 和 生
源義経 勘 弥
伊勢三郎 勘緑(前半)
玉志(後半)
駿河次郎 簑一郎
片岡 八郎 玉佳
常陸坊海尊 亀 次
武蔵坊弁慶 勘十郎
第二部
日吉丸稚桜 駒木山城中の段
中 咲甫大夫 清志郎
奥 津駒大夫 寛 治
萬代姫 一 輔
堀尾茂助義晴 清之助
木下藤吉 玉 輝
鍛冶屋五郎助
実は加藤清忠 玉 也
忍び 簑 次
伜竹松 紋 臣
女房お政 和 生
五郎助女房 清三郎
永井早太 文 哉
桂川連理柵
石部宿屋の段 三輪大夫 喜一朗
ツレ 呂茂大夫 清 公
六角堂の段 文字久大夫 清 介
帯屋の段 切 嶋大夫 宗 助
綱大夫 清二郎
道行朧の桂川
お半 英大夫 団 七
長右衛門 文字久大夫 団 吾
ツレ 津国大夫 清 丈
ツレ 新大夫 龍 爾
ツレ 希大夫 寛太郎
娘お半 簑 助
下女りん 玉 英
丁稚長吉 玉志(前半)
勘緑(後半)
帯屋長右衛門 勘十郎
出刃屋九右衛門 玉 勢
出刃屋の女中 玉 誉
女房お絹 紋 寿
弟儀兵衛 文 司
母おとせ 紋 豊
舅繁斎 玉 女


