【時々、すっぴん】亀岡典子 伝統伝える熱い思い
2008.12.2 03:17 産経
舞台の幕が開くと現れたのは大ガマ。歌舞伎「児雷也」に出てくる、あのガマガエルだ。「わーっ!」。子供たちから驚きの声が上がる。突然、大ガマの中から中村吉右衛門さんが登場した。もう一度子供たちから歓声が起こった。
「きょうはみなさんと一緒に遊んでみましょう。ここに歌舞伎のおもちゃ箱があると思ってください」。袴(はかま)姿の吉右衛門さんが、体育座りをしている子供たちに呼びかける。と、背後から「仮名手本忠臣蔵」に登場するイノシシが勢いよく走ってきたかと思えば、歌舞伎でおなじみの、人間が入った馬が出てきて子供たちは大喜び。
先月、埼玉県小鹿野町の町立両神小学校に、吉右衛門さんらによる「本物の舞台芸術体験事業」(文化庁主催、松竹製作)がやって来るというので、その様子を見学させてもらった。
東京・池袋から電車、車を乗り継いで約2時間。緑深い山々に囲まれた自然いっぱいの町の小学校だ。参加したのは両神小学校と、小鹿野町立三田川小学校の1年生から6年生までの計約250人。
「馬に乗りたい人、手を挙げて!」。吉右衛門さんが呼びかけると、一斉に手が挙がった。怖々乗る子、手を振る子…。また、雨や雪、波の音などを囃子(はやし)方が演奏する。 「日本人はこの音で雪が降っているとわかるんです。また虫の声もきれいだなあと感じる、そういう国民性なんですよ」
第2部では実際に舞踊「雨の五郎」と「鷺娘」などを上演。第1部で歌舞伎を身近に感じたせいだろうか、食い入るように舞台を見る彼らの姿に驚くとともに、先入観なく体中で楽しむ子供たちの可能性をうれしく感じた。
もしも子供のころ、こんな楽しい授業を受けていたら、いっぺんに歌舞伎に興味がわいたに違いない。しかも吉右衛門さんから直接教えてもらえるのである!
「歌舞伎は世界遺産になりましたが、残念ながら日本人の中でも、歌舞伎を見たことがないという人がまだまだ多い。私は何とか子供のうちに歌舞伎という伝統芸能があることを知ってもらいたい、そのためにはこちらから全国津々浦々まで出向いていくしかない。そう思ったのです」。吉右衛門さんはきっかけを語ってくれた。
吉右衛門さんが文化庁の「本物の−」に参加したのは今回で3年目。自分で企画し、子供たちが楽しめるようプログラムも工夫した。今年は1カ月かけて山形県、福島県、群馬県など東北から関東にかけて12の小学校を回ったが、交通の便のよくない地域も多く、体育館に一から舞台を設営するなどさまざまな苦労も伴う。
それでも3年間続けているのは、歌舞伎を知ってもらいたい、歌舞伎を好きになってほしい、そして自分の故郷を、自分の国に誇りを持ってもらいたい−。そんな熱い思いに突き動かされてのことなのであろう。
近年、歌舞伎をはじめ、能狂言、文楽など伝統芸能の各ジャンルで、子供たちのための体験講座が盛んに行われるようになった。伝統芸能の礎が強固なのは、演者の自分たちの芸能に対する誇りと、長い目で鑑賞者をも育てていこうとする特別な時間感覚を持っているからではあるまいか。
「僕は好きでやってるんですよ。お子さんとの交流も楽しいですしね」。吉右衛門さんは、子供たちのかわいい“見得(みえ)”を見ながら、心底うれしそうに笑った。(大阪・文化部)
« 古式顔寄せ手打式 l ホーム l 「熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」 »
日本の伝統芸能は最小の表現で最大の効果を狙うのですね。観客の脳裏に浮かぶ映像を信頼しているのだと思います。この面白さに気がつくとCGの映像よりも、よほど洗練された演劇だと感じるようになりますね。
黒御簾音楽って、すごい洗練されたものなんですね。大道具だって、それは書かれたものにすぎないのに、ああこれは御殿だとか、その世界に一気にとべる。以前は理屈でわかろうとしていたのに、いつのまにか、以前にその世界に入り込めるようになっている。やはり、日本人なのですね。